ユービーアイソフトが230人削減、中国舞台のアサシンクリード新作中止も判明
ユービーアイソフトが欧州やアジア拠点で計230人規模の人員削減を実施したことが判明しました。『トライアルズ』開発のRedLynx閉鎖やシンガポール拠点の縮小に加え、テンセント傘下のTiMiが開発を手掛けていた未発表作『アサシン クリード:デスティニー』の中止など、激震が走る同社の現状と協業体制の今後を整理します。
出典: GameLook
海外の大手ゲームパブリッシャーによる組織のスリム化が続くなか、フランスのユービーアイソフトでも大規模な事業縮小の波が押し寄せています。同社はスマートフォン向けタイトル『レインボーシックス モバイル(彩虹六号移动版)』のグローバル版サービス終了を発表した直後、欧州およびアジアに展開する複数の開発拠点にまたがる人員削減へ踏み切りました。
今回の人員整理は周辺スタジオの整理にとどまらず、長年実績を上げてきた中核開発部門にも深く及んでいます。さらに、資本提携を結ぶ中国テンセント(Tencent)との水面下の大型プロジェクトが開発中止になっていた事実も明らかとなり、業界内に少なからぬ衝撃を与えています。
欧州・アジアに及ぶ230人削減と「秦朝舞台の新作」中止の判明
今回明らかになった人員削減の規模は、欧州とアジアを合わせて230人に達します。フィンランドの名門スタジオであるRedLynxはスタジオ全体が閉鎖され、約52人が影響を受けました。同スタジオは高精度な物理演算と中毒性の高いゲームプレイで熱狂的なファンを持つ『トライアルズ(特技摩托)』シリーズを生み出し、『トライアルズ HD(特技摩托:高清版)』や『トライアルズ エボリューション(特技摩托:进化)』といった名作を手掛けてきた実績があります。
ドイツのデュッセルドルフ、ベルリン、マインツの3拠点でも「希望退職プログラム」が同時に開始され、合計で約100のポジションが削減されます。また、アジアの重要拠点であるシンガポールスタジオでもチーム全体の5分の1に相当する70人の人員削減が決定しました。シンガポールスタジオ自体は存続するものの、かつて『スカル アンド ボーンズ(S&B)』の開発最盛期に900人規模を誇っていた人員は、今や300人を割り込む水準まで縮小しています。
この大規模なリストラと時を同じくして、テンセント傘下のTiMi Studio Groupが主導していた未発表の新作コードネーム『アサシン クリード:デスティニー(刺客信条:命运)』の存在が公になりました。関与した開発者がポートフォリオで公開した映像から判明したもので、本格的なプロジェクト始動を前に開発が取りやめられていたことが分かっています。
流出した2025年2月のプロトタイプ映像によると、同作は紀元前206年の秦朝末期、楚漢戦争の幕開けを舞台とする正統派タイトルとして設計されていました。女性アサシンが項羽とその軍勢に包囲された宮殿へ潜入して神器を奪う筋立てで、油紙傘をモチーフにした回転武器による投擲や防御、項羽とのボス戦など、東洋の世界観を反映したアクションが確認されています。
成果を出した開発陣の切り捨てと経営再編の歪み
今回のスタジオ再編が強い波紋を呼んでいる最大の理由は、目覚ましい商業的成功を収めた直後の開発チームまでが削減の対象となっている点にあります。シンガポール拠点が主導した『アサシン クリード4 ブラック フラッグ リメイク(刺客信条:黑旗重制版)』は、発売からわずか14日間で販売本数350万本を突破する大ヒットを記録しました。同作の立て役者であるスタジオに対し、発売から3カ月で20%の人員カットを通告した経営判断には、コミュニティや業界関係者から厳しい視線が注がれています。
同様の冷徹な人員整理はスペインのバルセロナスタジオでも先行して行われていました。同拠点も『アサシン クリード4 ブラック フラッグ リメイク』の開発を共同で担当していましたが、同作の予約が100万本を突破していた2026年6月の段階で、スタジオ人員の28%に当たる51人の解雇が決定されていました。プロジェクト単体の成功にかかわらず固定費の圧縮を最優先する姿勢が浮き彫りとなっています。
シンガポール拠点については、過去に『スカル アンド ボーンズ』の開発が何度もゼロからやり直された経緯があり、現場のマネジメント不全が長年指摘されていました。しかし現場の開発者からは、度重なる人員削減による対処療法ではなく、根本的な管理体制の改善こそが必要だという声が上がっています。
業績改善を急ぐ同社において、生命線となっているのがテンセントからの巨額資金です。テンセントは2018年に3億6900万ユーロを投じて株式5%を取得し、2022年には3億ユーロを追加投資して出資比率を10%まで引き上げました。さらに2025年3月には、「アサシン クリード」「ファークライ(孤岛惊魂)」「レインボーシックス」の3大IPを独立子会社Vantage Studiosへ切り離し、テンセントから11億6000万ユーロの出資を取り付けて同年11月に取引を完了させています。
提携パイプラインの選別と今後の注目点
大型プロジェクト『アサシン クリード:デスティニー』の中止が浮き彫りにしたのは、テンセント側における投資対効果のシビアな見極めです。同社は自社開発のリソースを無制限に注ぎ込むのではなく、採算性や市場性を考慮してプロジェクトの選別を厳格化しています。
一方で、両社の共同プロジェクトが完全に途絶えたわけではありません。モバイル専用として2022年に発表された『アサシン クリード ジェイド(刺客信条:侠隐)』は、当初想定より進捗が緩やかであるものの開発が継続しています。紀元前215年の秦の始皇帝期を舞台とする同作は複数回のテストを実施しており、テンセントのモバイル運用ノウハウを活かした主力作として進行中です。
また、テンセントは2025年7月にユービーアイソフト関連業務を統括する専門組織「K9協力部」を新設しました。同部門の中核である『レインボーシックス』関連では、PC向け『レインボーシックス シージ(彩虹六号:围攻)』をベースとした中国向けタイトル『レインボーシックス:オフェンス(彩虹六号:攻势)』のテストが順調に進んでおり、中国市場での正式展開は確実視されています。ただし、ユービーアイソフト側のグローバル版『レインボーシックス モバイル』が2027年1月のサービス終了を決定したため、マルチプラットフォーム展開を模索するテンセント版の行方には不確定要素も残ります。
音楽ゲーム分野では今年『ジャストダンス:パーティー(舞力全开:派对)』がリリースされたものの、作品の評価に対して商業的な熱量は落ち着いた水準にとどまっています。同社の最新財務データによると、2026年3月31日時点のグローバル従業員数は約16,590人となり、前年同期から約1,200人減少しました。手元資金の確保を急ぐユービーアイソフトが制作能力を損なわずに安定成長へ回帰できるのか、残された協業パイプラインの動向が試金石となります。